内藤朝雄による、オススメいじめ本

内藤さんに、いじめ研究に役立つオススメ書籍を選んでいただきました。以下、内藤さんのコメント付きリストです。


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1)『いじめの社会理論』柏書房(学術的な本。講談社学術とかちくま学芸とかのムズかしい本を読む習慣のある人は、読んでください)



2)『いじめの構造--なぜ人が怪物になるのか』講談社現代新書(大学入学試験に合格する程度の人であれば、ちんと読めば読める。一般向けの決定版)



3)『〈いじめ学〉の時代』柏書房(理屈なしの感覚で読める。やさしい)。3→2→1の順序で読んでくださればありがたいです。また、内藤以外のものとしては、



4)中井久夫アリアドネからの糸』(みすず書房)所収の「いじめの政治学」は必読。すばらしい。



5)菅野盾樹『いじめ--学級の人間学新曜社中井久夫以外に、学識が深い著者による完成度が高い本はこれ)



6)荻上チキ『ネットいじめ』PHP研究所


新しい技術が生み出されると、それが従来あるものの新しい媒体として組み込まれ、新しい姿が人々の目に触れるようになる。それは、大げさに過大評価されるか存在しないかのように過小評価されるかのどちらかであることが多い。ネットいじめについても、多くの本が出されたが、大げさでトンチンカンなものが多かった。それは、ポケベルや携帯が人々の「世界」をがらっと変えてしまったかのように騒ぎ立てる、かつての大げさな言説の、退屈な繰り返しのようにも思える。


そのような、ピントはずれのゴミの山のような「ネットいじめ」言説の中で、唯一まともできちんとした分析をしているのが、本書である。さらに、著者は、ティーン世代のリアルタイムの流行や「物言い」のスタイルに通暁している。本人が最新世代オタクを自認しているだけあって、そのディテールの博識ぶりはすごい!社会科学的な一流の分析力、著者自身ネイティブともいうべきティーン世代のネットコミュニケーション・モードへの博識と通暁、そして何よりもセンスの良さ…この3つがみごとにそろった、著者の才能がまぶしく光る一冊である。



7)森口朗『いじめの構造』新潮新書
スクールカーストという重要ポイントを世に問うた功績は大きい。それを小説で見事に描いたのが、桐野夏生『グロテスク』(文春文庫)。すばらしい。中年になってからひさかたぶりに徹夜で、一心不乱に読んだ。あと、小説では、雨宮処凜『ともだち刑』(講談社文庫)がすぐれている。ときどき月2〜3回の居眠我慢大会で、同僚の斎藤孝さんと、『ともだち刑』は芥川賞ものだよ(齋藤さん)ね、英訳するとノーベル賞ねらえるよね(内藤)などと楽しく雑談している。この2つの小説は、英訳して世界に撃って出るべきものだと思う。


事例・データとして参考になるのは、



1)森田洋司監修/監訳『世界のいじめ--各国の現状と取り組み』金子書房(国際比較研究。いじめはどこでもある。そのどこでもあるいじめを国際比較しようとする努力)



2)佐瀬稔『いじめられてさようなら』草思社



3)畑山博『告発』旺文社



4)豊田充『葬式ごっこ--八年後の証言』風雅書房



5)門野晴子『少年は死んだ』毎日新聞社



6)土屋守監修、週刊少年ジャンプ編集部編『ジャンプ いじめリポート』集英社



7)豊田充『清輝君が見た闇』大海社



8)中日新聞社会部『ぼくは「奴隷」じゃない』風媒社



9)中日新聞本社・社会部編『清輝君がのこしてくれたもの』海越出版社



10)毎日新聞社会部編『総力取材いじめ事件』魔日新聞社



11)西日本新聞社会部取材班『弱者いじめ』西日本新聞社

まず、一つの事件を一冊で詳しく描いたものが、有用だ。「細部に神が宿る」ということはいじめについてもいえる。それから、安易に「近ごろの」○○は……といわないために、古いものを読む必要がある。(2)は85年、(3)は86年の本である。取材したのは出版年よりもさらに古い。西日本新聞社とか、中日新聞社といったローカル新聞がよくやっている。こういう取材の記録はジャーナリズムの財産であると思う。逆にさまざまな報道された事例を短く要約した労作としては、



12)武田さち子『あなたは子どもの心と命を守れますか--いじめ白書「自殺・殺人・傷害121人の心の叫び!』WAVE出版


それから、芹沢俊介氏が奥さんといっしょにこんな本を出していた。この本が、もっと世に知られるといいと思う。



13)芹沢美保・芹沢俊介『ある闘いの記録--頭髪校則の撤廃を求めて』北斗出版


加害者としての学校や教員や(学校を中心とした)地域社会についても注意をおこたってはならないので加える。



14)門野晴子『教師に異議あり朝日文庫



15)佐藤章『ルポ内申書未来社



16)藤井誠二『暴力の学校 倒錯の街--福岡・近畿大附属女子高校殺人事件朝日文庫



17)内藤朝雄『〈いじめ学〉の時代』柏書房


そして、若者支援NPOの事例


18)芹沢俊介編『引きこもり狩り--アイ・メンタルスクール寮生死亡事件/長田塾裁判』(雲母書房


(18)は文庫化してほしい。


ネットサーフィンをしていたら、こんなものをみつけた。このN君のなれの果てが、このわたし。そして、ここに出てくる豊明高校校長が、現在「ゼロトレランス」なるものを導入しようとする勢力の中心人物。因果なものである。


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