現状――『SPA!』のインタビューに答えたもの

「人間の尊厳を崩す格差と、弱者による妬み合いが生きづらさの元凶」
「泣きっ面に蜂。まさに今の日本人が感じている生きづらさは、この言葉に尽きると思います」


そう語るのは、いじめの問題などに詳しい社会学者の明治大学文学部准教授、内藤朝雄氏。


「お世辞にも“公正”とはいえない経済システムによって、不安定な貧困生活に追いやられる状況が、“泣きっ面”。そして不利な立場の者が不利な立場の者を攻撃する状況が”蜂“です。弱者がさらに弱者を責めたり、”おまえが俺より恵まれているのは許せない“と不幸の平等主義(妬み)を押しつけあったりする状況になっている。そこに生きづらさや閉塞感の元凶があるのではないでしょうか」


例えば、怠け者のように責められる「ニート」の問題だ。


「日本経済の衰退とグローバルスタンダードによる国際競争、そして労働市場の変化によって、就職が困難な若年層が生まれた。日本経済の犠牲者ともいえる、こうした層に、メディアは”ニート“というイメージをおっかぶせ、”働きたがらない若者“のように報じた。メディアで喧伝される”ニート“像を見て、働く貧困層が、“俺はこんなに苦労しているのに、おまえはなんだ”と憎しみを募らせる。一方、より弱い層も、自分より少しだけましな層を引きずりおろそうとしてしまう。本来ならば、そうした妬みや憎しみを抱くのではなく、共に手を取り合って、不公正な社会システムに対し、正当な怒りの声を上げるべきなのに、不毛な争いに始終している。秋葉通り魔事件のようなことが起きたときに、犯人の行為を劇的に報じたり、ネガティヴな感情に共感し、同調したりするのではなく、不公正な社会システムに対して共に怒り主張できる人間関係の構築を目指すべき」


しかし、ある種の「格差」は、必要不可欠だと内藤氏は続ける。


「現在の格差は、“人間の尊厳”を崩す格差になっている。それが問題なんです。ある人は、仕事が成功して外車だけど、ある人は国産の小型中古車だ。この格差はビジネス能力の差による正当な格差です。しかし、ガンになったとき、富裕層はまともな治療を受けられるのに、貧乏だとそれが受けられないで死ぬしかないというのは、人間の尊厳を崩す格差です。教育もまた然り。貧乏でも、しっかりとした教育を受けられるようでなければいけない。こういう不公正な格差は修正されなければならない」


ただ、妬みの感情を脱するのは凡人には難しそうだが……。


「経済的に不利な人は、人間関係の質も乏しいという、思い込みをやめるべきです。大部分の人は、人を妬むよりも、たがいに信頼し合い、友の喜びを喜び、ルールの不公正に怒る人生のほうが、“生きていてよかった”と感じるようにできています。自分の人生を、そう感じて生きたければ、妬みや足の引っ張り合いをやめたほうが、断然トクなんです」
SPA!』2008年10月14日号、通巻3146号、扶桑社